世田谷相続専門税理士事務所

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申告期限が迫る!未分割の小規模宅地に特例を適用する方法

未分割の宅地

 

こんにちは、世田谷相続専門税理士事務所です。
 

小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、一定の要件が定められています。その一つが、宅地等の分割要件です。相続税の申告期限までに分割されていない宅地については、特例を適用できません。しかし、被相続人の死亡から10ヶ月以内という短い期間内に遺産の分割を完了させることが困難なケースも存在します。
 

本特例には、相続税の申告期限内に分割が完了していない宅地等についても、一定の手続きを踏むことで、後日分割がなされた場合でも特例の適用を受けられる規定が設けられています。

 

具体的には、「申告期限の10ヶ月以内までに宅地等を分割できない場合の手続き」と、「申告期限から3年以内に宅地等を分割できない場合の手続き」の2種類が存在します。

本記事ではこれら2つの手続きについて詳述いたします。

 

この記事の目次

  • 小規模宅地等の特例の分割要件
    未分割の場合に特例を適用できない規定
    1. 配偶者の税額軽減
    2. 特定計画山林の特例
    3. 非上場株式等の納税猶予などの納税猶予の規定全般
    未分割で申告する場合の特例適用の流れ
    「申告期限後3年以内の分割見込書」
    1.分割前の手続
    2.分割後の手続
    「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認請書」
    1.分割前の手続
    2.分割後の手続
    やむを得ない事情がある場合と分割できることとなった日
    一次相続が分割前に二次相続が発生した場合

小規模宅地等の特例の分割要件

 
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに相続人等の間で特例の対象となる宅地等が分割されていることが必要です(措法69の4④)。
 
 
被相続人が使用していた宅地は、相続人の生活や事業の基盤となっていることも多くあります。相続人の生活や事業の継続を考慮して、税の負担を軽くするために、特例が設けられています。ただし、特例を適用するためには、「誰がその土地を使うのか」が明確でなければなりません。
 
未分割の土地で、利用する相続人が決まっていない場合、制度の趣旨から逸脱してしまうため、特例は適用されません。この特例を利用するためには、相続税の申告期限までに、どの相続人が宅地などを使うのかが明らかになり、相続人間で分割が行われている必要があります。
 

未分割の場合に特例を適用できない規定

 

小規模宅地等の特例の他、相続税の申告期限までに遺産が分割されていないと適用できない規定には次のようなものがあります(法19の2②、41②、措法69の4④、69の5③、70の6④、70の7の⑦、70の7の6⑤)

 

ただし、「1. 配偶者の税額軽減」「2. 特定計画山林の特例」は、相続税の申告時に分割見込書を提出すれば、その後、遺産分割が確定した場合、4ヶ月以内に修正申告または更正の請求を行うことで特例の適用を受けられます。しかし、「3. 非上場株式等の納税猶予などの納税猶予の規定全般」は、未分割のまま申告期限が過ぎてしまうと、その後に分割が行われても特例の適用は受けられません。


いずれにせよ、未分割で申告する場合は、これらの納税に有利な規定が使えないため、申告する際に納税負担が大きくなるため、納税資金の準備も心掛けましょう。

 

1. 配偶者の税額軽減

 
配偶者の税額軽減は、配偶者が取得する財産の価額が1億6,000万円まで、または配偶者の法定相続分までについて、相続税を課さないという特別なルールです。この特例は配偶者のものなので、どの財産が配偶者に分配されるのかが明確でない場合、特例は適用されません。つまり、配偶者に割り当てられる財産が確定するまでこの特例を利用することはできません。
 

2. 特定計画山林の特例


特定計画山林の特例とは、一定の条件を満たした山林を取得する際に、その価格を減額するという制度です。小規模宅地等の特例の山林版ともいえるでしょう。やはり、山林が相続人間で分割されていない状況では、この特例を利用することはできません。
 

3. 非上場株式等の納税猶予などの納税猶予の規定全般

 
非上場株式等の納税猶予は、事業の後継者が先代から相続等により非上場株式を取得した際に、相続税の一部が猶予される制度です。しかしこの制度は、株式が分割されていない場合には適用されません。
 

この納税猶予の規定は、非上場株式以外にも農地、山林、医療法人の持ち分、事業用資産に対しても適用されます。ただし、これらの資産も未分割のままでは特例の適用が認められません。

 

未分割で申告する場合の特例適用の流れ

 
未分割の状態で相続税の申告書を提出する場合の手続きについて、説明します。
 
遺産分割協議確定までの手続き
 

「申告期限後3年以内の分割見込書」

 
分割見込書類
 
特例適用のためには相続税申告期限までに宅地の分割が必要です(措法69条の4④)。しかし、遺産分割が申告期限までに完了しない場合でも、以下の手続きを行うことで申告期限後に分割が完了したときに特例の適用が可能になります(措法69の4④ただし書)
 

1.分割前の手続

 
申告期限後3年以内の分割見込書の提出: 宅地等の分割が完了していない理由と分割予定を記載した「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税申告書に添付し、税務署に提出します(措規23の2⑧六)。
 
  • 提出期限:法定申告期限
 

2.分割後の手続

 

更正の請求: 分割が申告期限から3年以内に実施された場合、成立日(遺産分割の調った日)の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行い、特例の適用を受けられます(措法69の4⑤、法32)。

 

  • 手続期限:分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内
 
 

注意点:更正の請求の起算日は「遺産分割等が行われた日」であり、「宅地選択の同意の日」ではありません。分割は確定していても、相続人から特例対象宅地等の選択の同意を得られないまま4ヶ月が経過してしまった場合、その後で宅地選択の同意が成立しても特例の適用は受けられません。

 

「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認請書」

 
やむを得ない事由がある旨の承認請書
 
相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が行えれば良いですが、相続問題などで遅延する場合もあります。その際、特定の手続きと税務署長の承認があれば、後から分割が完了したときでも特例の適用が可能です(措法69条の40④但書)。
 

1.分割前の手続

 
遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認請書の提出: 
相続税の申告期限から3年が経過する日の翌日から2ヶ月以内に、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認請書」を、その理由を証明する資料と一緒に税務署に提出します。その申請が税務署長から承認されると、分割前の手続きは完了です(措法69の4④但書)。
 
  • 提出期限:申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内
 
注意点:承認申請書の提出期限は、申告期限から3年が経過する日の翌日から2ヶ月以内です。この2ヶ月間に申請書を提出することが必要です。早めに提出しようとして申告期限から3年経過する日より前に提出することはできないので、ご注意ください。
 

2.分割後の手続

 
更正の請求: 「遺産の分割ができることとなった日」の翌日から4ヶ月以内に分割が完了すれば、特例適用の対象となります。「遺産の分割ができることとなった日」の翌日から4ヶ月の間に「更生の請求」を行うことで、過払い分の相続税が還付されます(措法69の4⑤、法32)。
 
  • 手続期限:分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内
 
 
 
注意点:「やむを得ない事情」とは、遺産を分割できない理由を指すもので、手続きができない事情を意味するわけではありません。もし、申請書の手続きに関する事情で期限を過ぎてしまった場合、特例の適用は受けられないので、十分注意してください。
 

やむを得ない事情がある場合と分割できることとなった日

やむを得ない事情がある場合と分割できることとなった日
 
「やむを得ない事情」が存在する場合や「分割できることとなった日」についての解説です。
 
 

1.訴訟提起の場合

  • やむを得ない事情: その相続について訴訟が提起さている
  • 分割できることとなった日: 判決の確定、和解、訴えの取り下げ、その他訴訟の完了の

 

2.和解・調停・審判の申立の場合

  • やむを得ない事情: その相続について和解、調停、または審判の申立がなされている
  • 分割できることとなった日: 和解・調停の成立、審判の確定、申立ての取り下げ、またはその他の申立事件の終了日

 

3.遺産分割の禁止(民法9073)の場合

  • やむを得ない事情: その相続において民法の定めにより遺産分割が禁止、相続の承認・放棄の期間が伸長されている
  • 分割できることとなった日: 遺産分割の禁止期間・伸長期間が経過した日

 

4.税務署長により認められるその他の事情

  • やむを得ない事情: 1から3までのほか、税務署長が分割されなかったこと・分割が遅延したことに対してやむを得ない事情があると認める場合
  • 分割できることとなった日: その事情が解消した日
 

相続税申告期限から3年を経過する日に、これらの「やむを得ない事情」が存在すると、遺産分割が遅れても問題ありません。分割の再延長が認められます。

 

また、遺産分割が可能になった日から4ヶ月以内に「更生の請求」を行うことで、過払いの相続税を返還してもらうことが可能です。例えば、「1.訴訟提起の場合」では、判決が確定した日から4ヶ月以内に更生を請求しなければならないことになります。

 

一次相続の分割前に二次相続が発生した場合

 
相続人等のいずれかが被相続人の宅地等の分割前に亡くなられた場合(二次相続)、宅地等を持っていた被相続人の申告期限までに(一次相続)、死亡したその相続人が宅地等を取得するとする遺産分割協議が調うと、被相続人の宅地等はその相続人が相続により取得したものと取り扱かえます(措通69の4-25)。
 
 
つまり、亡くなった相続人が被相続人から取得したとされた宅地等は、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
 
相続関係図
 
前提条件
 
  • 被相続人:父。父は土地・建物を所有し、配偶者と共に居住していた。
  • 父の相続人:配偶者と長男
  • 二次相続の相続人:長男の妻と孫
  • 一次相続(父の死亡):☓1年3月20日
  • 二次相続(長男の死亡):☓1年5月20日
  • 一次相続の遺産分割協議日:☓1年8月10日
  • 一次相続の申告期限:☓2年1月20日

 

父が亡くなり(一次相続)、父が所有していた土地・建物の遺産分割が始まりましたが、この分割が完了する前に、長男が亡くなってしました(二次相続)。一次相続の申告期限(☓2年1月20日)までに、遺産分割協議が行われ、配偶者・長男の妻・孫との間で、長男が父から土地・建物を取得したことが確定します。

 

この結果、一次相続の申告期限までに長男が取得した遺産の分割協議が成立したとみなされます。このため、父が所有していた土地・建物は、長男が相続したものとされ、特定居住用宅地等の特例が適用されます。なお、長男は、小規模宅地等の特例の取得者要件を満たしていたものとします。

 

措通69の4-25 [共同相続人等が特例対象宅地等の分割前に死亡している場合]

 

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